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命の重さを受け止められるか

 知り合いの男が自殺した。旅先では情報が入ってくるのが途切れがちなこともあり、その知らせを知ったのはあまりに突然だった。彼の死は、先ほど立ち上げたパソコンから飛び込んできたばかりだというのに、彼はまだ生きているような気がした。

 ブログを残していた。死の直前になって訪問者がメッセージを書き込めるように設定していた。教えてくれた人がいたのでクリックしてみると、彼が記録していたのは、現実とはまったく無関係な時間と空間だった。空の雲について、その中で漂流したことがあると書いてある。海について、かつてまっすぐ墜落していったと書いてある。人については、自分は哀れなほど小さな一つの器官にすぎないと書いてあった。

 生きることは歌のようにはいかない。誰も彼の幻覚を理解できず、冷淡と無情が長いこと彼の人生の道連れであったのかもしれない。ほかに何を言えばいいのだろう。若い人が突然彼を発見し、彼が開放したメッセージ欄にハチの巣のように集まり始めたこと。これもまた彼が残した新しい芽といえるだろう。

 彼の過去は現在に変わった。あまりにも多くの人が彼の生前の笑顔を思い起こしたせいか、彼がかつて口にした、ちょっとした挨拶でさえ、メッセージ欄に一編の短文として書き込まれた。不思議な偶然だろうか、中国へ帰国する日、電車で関西国際空港まで行くときに僧侶の一群を見かけた。

 僧侶たちは直立して一歩も動かない。私は好奇心から携帯電話で撮影した。何故か分からないが、撮影した瞬間、空気が冷たい感じがした。
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 自殺した男に話を戻そう。彼の心の門は固く閉じられていた。その門を開いたときには、彼自身は空になっていた。南無阿弥陀仏。
by amaodq78 | 2010-08-24 09:40 | 文事清流
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