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猫と僕

 くまちゃんは僕が飼っている猫だ。名付け親も僕である。
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 ある年、江蘇省のなまりのつよい母が北京から来た時に、僕も妻も猫を「KUMA」と呼ぶのを聞いて、その度に文句を言っていた。「どうして猫のことを“おばさん”(中国語の発音・姑媽GUMA)と呼ぶんだい?」

 くまちゃんは黒猫だが、おなかの部分の毛は真っ白である。来たばかりのころは小さくて、僕の掌の上で寝ているすがたは、黒いロールパンのようだった。

 猫は猫好きな近所の人が持ってきた。ご主人はパン屋をしていて、奥さんは専業主婦だった。猫を持ってくるとき、ご主人は「毎朝夜も明けないころに家を出るんですが、その日は月が出ていなかったんです。そしてふと見ると、地面に真っ白に光るものがあって、パッ、パッと光るんです。近づいて見てみると、それがこの小さな黒猫で、このおなかが光っていたんですよ!」

 ご主人が猫を引き取ってもらうために、彼が見た光のことを大袈裟に話しているのかもしれないというのは見てとれた。なぜなら、彼らは僕がとても猫好きというわけではないことを知っていたからだ。

 僕に比べて、妻は愛猫家である。彼女は幼いころに北京で猫を飼っていて、その後ベルリンに行っても飼っていた。また、出かけて帰ってくるときにこのご近所さんに会うと、必ず彼らと猫の話をしていた。僕は内心わかっていた。

 たとえこの猫を引き取らなかったとしても、妻はきっと別のところから猫を連れて帰ってくるだろう。そこで、この猫を引き取ることにして、名前は絶対に僕が付けると決めた。こうしてくまちゃんは我が家に進駐し、家族の一員となったのだ。

 くまちゃんは性格が穏やかで、僕たちをてこずらせることなく、また高いところへ逃げ隠れるようなこともない。ためしにおもちゃを買ってきて与えても、見向きもしない。

 いちばんおもしろいのは彼が僕を見る方法で、往々にして直接見るのではなく、大きな鏡の前に立って、鏡越しに視線を投げかけてくる。その態度はミステリアスで、ときには思想家のようである。

 季節を問わず、くまちゃんは僕の視野の範囲にいれば、かならずこうやって見てくれるのだ。
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by amaodq78 | 2008-02-13 16:20 | 黒猫の隣歩き

僕の宗教体験

 もし僕に宗教体験があるとすれば、それは仏像との出会いということである。神の姿をみることもなく、神の声を聞くということは一度もなかった。
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 仏像とは、それはただ会うということではない。大学時代に敦煌という素晴らしいところを旅行したが、一度にあんなたくさんの仏像をみたのは初めてだったのに、ひとつひとつ顔が違っていて、それらは僕の中でも鮮明に今も覚えていたのである。

 特に莫高窟45窟の仏像の顔、驚くほど表情豊かなことに気がつき、みんなそれぞれのモテルになった聖人が実在しているのではないかと、大卒になってからも、しばらくのあいだそのように考えてきたのだ。

 出会いとは見ることではない。目差しが消えることであると同時に、相手が物から人に変ることである。僕と仏像が、その当時主体と客体の関係ではなくなり、相互主体になったような気がする。つまり、宗教的な体験の一瞬でもある。
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by amaodq78 | 2008-02-10 23:38 | ノスタルジックな時間

普通の日本人の魅力

 色々日本の本を読んだけれど、一番面白かったのが本居宣長の『古事記伝』。そこで僕は、1987年から、宣長が一生を過ごした松坂に近い三重大学に留学しました。

 浄土真宗の高田本山のある津市の一身田に住んでいましてね。隣のおばさんがお参りに行く姿を見て、親鸞に興味をもったんです。有名な「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」という「悪人正機説」、ああいう発想は中国人には、考えられないですね。あまりにギャップが大きすぎる。 

 でも、日本人の普通の生活の中で暮らしていると、なんとなくわかる部分があるんですよ。日本のお寺の住職は、保育園の園長先生をやっていたりしますね。日本は、お坊さんが生活の中に入り込むことによって、仏というか南無阿弥陀仏みたいなものが、一人ひとりの人間の中にいるんじゃないか。日本の素晴らしいところは、そこだと思う。

 日本では、墓地が至る所にある。黄昏の夕日が墓地に射して、その美しい光の中で幼稚園の子供たちが鬼ごっこをして夢中で遊んでいる。死者と生者がむつみあうようなのどかさ。現代の中国ではありえない光景です。

(平成18年『文芸春秋8月臨時増刊号』「私が愛する日本」・平成20年2月26日発売『私は日本のここが好き--- 外国人54人が語る』加藤恭子編 P12-16 毛丹青 出窓社)
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by amaodq78 | 2008-02-10 21:09 | 新聞雑誌掲載文