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僕のナンセンス読書術

 小説は自分では書かないが、読むのは好きだ。旅行のときはたいてい、一冊をカバンに入れていく。この点、文庫はかさばらなくて旅のお伴にちょうどいい。

 お気に入りの小説家が何人かいて、それはどんな小説を読んできたのかはわからず、結構いい加減なものである。

 駅の待合室やホテルの喫茶室はともかく、家近くにある公園のベンチで取り出したりしたからだ。読むだけではなく、小説を横に置くと、眼は少し遊んでいたら、もうすぐ寝てしまうときもある。

 しかし、小説に関してのみ言うなら、表紙の傷みぐらいでひと目でわかる気もする。この頃いちばん傷み激しいのは、乃南アサ『夜離れ』である。ずいぶん、いろんなところに持っていった。中国でいうと、北京や上海、それに杭州市内。宿泊先のホテルの部屋とともに、ヨレヨレ表紙の小説もまた、微妙な静寂さに疲れを増していた。

 僕の読む小説では、なるほど、この僕が含まれているかもしれない
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by amaodq78 | 2007-11-25 08:50 | 文事清流

李鋭東京講演会の挨拶文

 ご紹介預かりました、私はマオと申します。

 李鋭さんは、先週金曜日に日本に到着しました。まず大阪に入り、翌日の講演会を終えると、その日のうちに京都に移りました。私はよんどころない用事がありまして、どうしても北京に帰らなければならず、日曜日から北京に二泊して用事を済ませた後、本日の午後の便で直接東京入りいたしました。

 飛行機が遅れないとも限らないため、事前に挨拶を考えておきました。万が一飛行機が遅れたときには、申し訳ありませんが司会の方にかわりに読んでいただき、この李鋭さんの講演会についての私のご挨拶とさせていただきます。
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 李鋭さんの略歴と紹介は、今日の席上でお配りする資料にかなり詳しく書いてありますので、ここで一々読み上げることは控えさせていただきます。私からは、ささやかなエピソードをご紹介するのみにとどめておきたいと思います。

 李鋭さんは、これまでに世界各国を訪問されておりますし、各地での講演会も数多く経験されていますが、日本に来られたのはこれが初めてです。

 中国の著名な作家が日本という国に初めて触れる瞬間の目撃者となれたことは、私にとってとても幸運なことだと考えております。

 国際交流基金さんが私の提案を聞き入れて下さり、開高健記念アジア作家講演会シリーズの一環として、このたびこうして李鋭さんを日本に招いて下さったことに、心から感謝を申し上げます。

 私は関西空港で李鋭さんを出迎えました。我々北京っ子の挨拶は、まず相手に「ご飯はすみましたか?」と聞くのが決まりです。こういう挨拶は最近ではあまり流行らないようですが、旅の疲れを落としてもらい、遠路はるばるやってきた友人を歓迎するためには、やはりまずは何か特別おいしいものをご馳走したいというのが私の気持ちでした。

 「日本料理はどうですか?」と私が尋ねますと、
 「いいね。でも、生ものは食べられないけれど」という答えでした。

 「OK。それじゃあ暖かいものがいいな。鍋物がいい。ちゃんこ鍋にしよう」

 その時は口にしませんでしたが、私は心の中でそう考えました。大阪市内に着いて荷物をホテルに置くと、すでに夕方でした。まずは、彼を法善寺横丁に案内しました。日本に20年住んでいる私にとっても、非常におもしろい場所です。

 横丁に着くと、ちょうど日が落ちて赤提灯がともりはじめた頃でした。雨上がりの濡れた地面に提灯の明かりが映えて、お月様まで映っていました。「夫婦善哉」の店のそばの水掛不動尊というお地蔵様の前で、突然李鋭さんが立ち止まりました。「この石のお地蔵さんは、どうしてこんなに全身青々と苔むしているんですか」と李鋭さんは私に聞きました。
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 私にとって李鋭さんは、文章を書く人で、ずっと机に向かって仕事をしているというイメージでしたが、この時の彼はカメラを取り出すと、目の前の情景をひっきりなしに何枚も何枚も撮影していました。そうこうしているうちに、たくさんの日本人がこの苔むしたお地蔵さんの前に列をなしはじめました。

 男も女も、老人も子供も、拝む前にひしゃくを高々とかかげ、お地蔵さんの頭から水を掛けていました。ちょうちんの陰影の下で、水滴がちらちらと輝いていました。お参りをしている人々は、みなとても敬虔な様子です。それはまるで、「この石のお地蔵さんはなぜこんなに全身青々と苔むしているのか」という先ほどの李鋭さんの疑問に答えてくれているかのようでした。

 この情景が、一人の中国の作家と日本の情景との最初の接触であり、李鋭さんの興味、思考をかきたてた瞬間でした。同じアジアの、異なる文化がもたらす異なる好奇心と言っていいでしょう。その夜は、法善寺横丁のちゃんこ料理屋で夕食をとりました。国際交流基金の担当者のほか、私の友人である神戸外大の佐藤晴彦教授も同席しました。李鋭さんは興味津々の様子で、熱い日本酒もずいぶんたくさん召し上がりました。
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 この講演会は、皆さんがアジアのなかの中国を知るチャンスであると同時に、中国が日本を知るチャンスでもあります。先ほどご紹介した情景のような、ごくありふれた情景が一人の中国の作家の好奇心をそそり、また旅先においてインスピレーションを与えるのです。

 最後に、李鋭さんの講演会にお越しいただいたこの会場の皆さまに、改めて感謝の気持ちを申し上げ、私のご挨拶を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(了)

 中国語版→李鋭東京講演会の挨拶文
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by amaodq78 | 2007-11-07 00:54 | 文事清流