小さな鹿よ、わが心を清くす

 メルヘンの中に、鹿はいつも美しい。いまになっても、僕はそう思いつづけている。というのも、小さい頃にお祖母さんに教えられたある心温まるお話は、いまだに忘れていないからだ。

 中国の東北地方に、冬が入ると、狩人達は動き出す。狩猟の対象物を探しに、山を登っていくのも毎年に行われる行事のひとつでもあるようだ。積雪が深々と険しい山道にさしかかった時もあれば、清溪は流れ止めて、薄氷一面を張らせたのもよくある光景のようだ。そんな道の周辺に、嗚咽を漏らしながら逃げ出す鹿や狩人達の足跡が入り乱れ、重なり、積もるさまが見えてくる。中国の冬は鹿の狩猟季節にもなっている。

 そんなある日のことだったが、一匹の小さな鹿は突然、猟人の目の前にあらわれた。獲物を追い続ける彼らにとっては、待たないチャンスだったに違いがない。それのせいか、猟人達は一斉に猟銃を撃つ体勢に変わった。ところが、鹿はまるで人間の動向を鋭く観察していたかのように、猟人達の前から大きな岩の後ろに素早く逃げ出した。

 それを見落とさずに、引き続く追っかけていく猟人達、身の危険を感じながら懸命に逃げ出そうとする小さな鹿、雪の山に生と死のバトルは展開されていった。しばらくすると、木の下に隠れようとする鹿を睨みつき、猟人達は、ついに発砲したが、見事に外れてしまった。

 小さな鹿はさらに山の奥まで逃げ込んでいく。猟人達はあきらめずに、追跡してみた。

 今度は、鹿が身を隠さずに、1本の小さな木の横にぴったと止まった。鹿の目線はあたかも狩人の指で早く引き金をひいてもらうように、ある種の期待でもあったかのようだ。小さな鹿はもう逃げない。木の横になんにかをずっと待っているかのように見えた。やがて狩人の指は引き金を引いた。耳を炸裂したかのような銃声と共に、鹿は倒れてしまった。

 木の周りに積もった雪は赤い血で溶けてしまい、小さな鹿はもう死んだ。狩人達は四方から集まってきて、不思議そうに鹿の死体を眺めてみたら、なんと小さな鹿の後ろに、雪地に凍りついた人がいるのをはじめて気がついた。なんだ!登山人はここで凍傷になり、身も取れなくなったのだ。

 まさかあの小さな鹿は人間を救うために、わざわざ猟人達を誘いに出たとは、しかも自分の体を張って、救援隊を呼ぶために打たれても、人間を救おうとしたいのだ。凍傷の人はまだ、息をしているようだ。声も出せずに、猟人達を見て、涙は止まらずに湧き出した。皆は小さな鹿の献身に震撼され、しばらくは誰もが話すらできなくなった。その後、狩人達は冬の狩猟をやめることにした。後に、この山はやがて鹿達の楽園になった。

 お祖母さんは教えてくれたこの話はおそらく子供だったこの僕のために、なんにかを懸命に伝えようとしていたのだろう。大人になってから、僕は段々、その真義を知る気がして、きっと地球上の生き物に対する愛情の大切さを訴えたい気持で、このメルヘンを残してくれて、そしてあの美しい小さな鹿もこの僕に語りかけてくれたのだ。
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by amaodq78 | 2008-08-05 17:09 | 文事清流
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