阪急梅田駅の喫茶店

 その喫茶店には楕円形のカウンターがあり、並んだスタンド椅子はいつも客でいっぱいだった。男性もいれば女性もいる。

 女性客の多くはおしゃれで、きれいな服を着ている。見ればすぐデパートで買い物をしたあと休憩しているのだとわかる。大勢の人が話しているときもあれば、誰も話していないときもある。

 店の天井の上は線路で、毎日同じ時間に電車が駅を出ると、ごうごうと製鉄所から溶鉄が出てくるような音が耳を震わせる。店主は若い女性で、とても大阪っぽい人だ。季節が変わっても、彼女はいつも白いシャツを着ていて、それには「大阪」という二文字が大きく黒くプリントされていた。

 何回も彼女に会った。カウンターに座るといつも、まず目に入るのは彼女の胸の「大阪」の文字で、その次が彼女の微笑みである。軽やかに僕の前に現れて、「コーヒー下さい」と言い終わらないうちに、常連客はいちばん気に入っている種類を飲むことができる。彼女はとっくに客の好みを知り尽くしているからだ。

 喫茶店に入る回数が増えると、逆に観光客のようになっていった。一つには、話をしないこと、そして店主の微笑みに会うと、僕は軽く頷いて、礼を以って応えるのが習慣になったからだ。彼女はカウンターの仕事をし、僕はコーヒーを飲む。大阪の時間は永遠にとどまることなく流れていく。音もなく、跡形もなく……。

 その後、僕がまた喫茶店に行くと、彼女はいないことに気が付いた。引き継いだのは中年の男性で、彼が着ているシャツにも「大阪」の二文字があったが、黒色ではなかった。

 彼女の微笑みがなくなれば、僕ももう頷くこともなく、コーヒーを飲む速度も早くなったような気がした。もっともこれはまったくもって個人的な感覚である。それからも阪急梅田駅の高架下には、やはりこの喫茶店がある。

 聞くところによると、あの店主は実は口が不自由で、今は結婚したのだという。彼女の夫は長年彼女のカウンターに座って彼女の微笑みを見ながらコーヒーを飲んでいた青年だった。
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by amaodq78 | 2007-04-28 07:03 | ノスタルジックな時間
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