大きな挑戦への編集者の転回

 編集者の尤君は昨年の春、上海の大手出版社を辞めた。わずか半年足らずにいたが、雑誌や書籍の編集から油絵オークション業界への華麗な転身を皮切りにこれまで中国国内を十数回も飛びまわってきた。彼にとって、ここがもっとも激動的な時間を過ごした場所となった。

 上海の収集作品だけでは足りずに中国全土へまで足を伸ばし、観るだけでは収まらず関連書簡に読み耽ったのは、十数年の歳月を経て、彼に生じたそのような油絵への執着心と無関係ではないだろう。

 いま思えば、僕にもこのような転回があったのではないか?長い期間におよぶサラリーマンとしての日々を通して、少しずつ、痛みと共に「雇われる人」と「やってみる人」との交感が営まれたのではないか。

 このような転回の、鮮やかに同時代的なあり方をつい最近まで実感することができなかった。編集者の尤君を見ていると、人間は日常のなかで、眼を見開いたまま自らの内側を覗き込み、混沌からなにかを掴み捕ろうと格闘する孤独な姿が浮かび上がる一方、たいへん野心的な、なにかを巨大な力で変えようとする強い意思も感じられている。

 尤君とは拙著の編集で交友が深まったこともあるから、彼の転職は他人事ではない気もする。それにしても、先月の油絵オークションで初舞台でありながら、日本円でいきなり数千万円の大金を稼いだというから、周囲を驚かせたのである。

 彼はいま北京で油絵の仕入れに奔走しているが、妻との類縁性は薄かったせいか、つい正式に離婚したそうだ。勿論のことだが、彼はもう引き返すことのできぬ転回のなかに巻き込まれていくに違いがない。
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by amaodq78 | 2007-02-26 21:59 | 文事清流
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